始まりのチョコレート






「すいません、宮内さん」


背後にいたその人は、私の隣に並んで、軽く頭を下げる。
やっぱり、矢野くんだ。
ぜんぜん大丈夫だよ、って、口ではそう言いながら、ぜんぜんうまく笑えない。
二人は一体、どんな関係?
知りたいのに、聞く勇気もなくて、私はそのまま、逃げるように二人に背を向けた。
遠くから見たって、お似合いなのがよく分かる。
なんて、私は、惨めなんだろう。



「仕事しろ、何べんも言わすな」



耳元で聞こえた、大嫌いな声に心臓が飛び跳ねる。
振り向いて、少しかがんだ中谷と目が合ったときには、頭をひっぱたき返してやろうかと思った。
それくらい、苛立って、嫌みったらしくて、でも、ほんの少し、気が紛れた。ような気もする。


「・・・そんな顔すんのやったら、もう、見んかったらええやん」


中谷は、苛立ちの混じったようないつもの表情で、だけど私の知らない、切なげな声で、そう呟いた。
なんで、中谷がこんな、悲しそうなんだ。
私は、無性に泣きたくなった。
でも、馬鹿にされたくなくて、必死に唇を噛んで、堪えた。