始まりのチョコレート






バイトが終わるまで、あと三時間。
中学から使っている時代遅れの腕時計で時間を確認して、ため息が出る。
さっきの休憩から、まだ15分しか経っていないなんて、信じられない。
時間の流れが、あまりに遅すぎる。
この、しょっちゅう時計を見てしまう癖を、いい加減治そう。


「・・・・すみません、」


背後から、耳慣れない、可愛い声。
この男くさい場所にはあまりに馴染まないその声は、周囲の喧騒に紛れそうなほど小さかったけれど、私にはすぐ、聞き取ることができた。
振り向いて、案外すぐ近くにその声の主がいたことには驚いたけれど。

それは、イメージ通り、小柄で可愛い女の子だった。
まだ、高校生くらいに見える。
あまり背が大きいほうではない私より更に背の小さいその人は、きらきらした目で私を見上げていた。


「なんでしょうか、」

「あ、あの・・・・」


一瞬だけ俯いた彼女は、意を決したように顔を上げた。

そして・・・・


「や、矢野くん、いますか?」


震える声で、確かにそう、口にした。