俺の名は
《倉田 公平(クラタ コウヘイ)》。

22歳で、美容師として
働いている。

近い将来、自分の店が持てる。

俺の腕の良さを認めてくれた
《羽鳥さん》が、近々出す店を俺に任せると言ってくれたんだ。

元々顔のつくりが良い俺は、
今の店でも《イケメンBoy》とかって、沢山指名されていた。


そこで出会ったのが――…
《井上 蜜葉(イノウエ ミツハ)》。

俺の専属の客だった。

蜜葉は月一回、
必ず店に来ていた。

彼女の髪はとても綺麗で
とても艶やかだった。

胸の辺りまである長い髪は、
ストレートでありながら
毎日しっかり巻いているらしい。

色素の抜けた茶色い感じが、
彼女のイメージにピッタリで。

俺は毎回見取れていた。

そして――…
恋に落ちていたんだ。


そんなある日。

蜜葉は店で何時も通り
俺の前に座りながらこう言った。

《今度、何処か遊びに行きませんか?――…》

正直、俺は驚いた。

仕事中にこんな話をされたのは
初めてだったから。

少し躊躇いながらも、
俺は必然的にこう応えていた。

《いいよ――…》

断る理由なんてなかった。

俺は蜜葉に惚れていて、
蜜葉は俺を誘ってきたのだから。

絶好のチャンスだと思った。

ただあの日、
店の外で蜜葉を見掛けなければ――…。