改めて俺は偽貞子の方を振り向いた。

やはりあの長い髪以外は微動だにしない。

「…大体先輩がナンパしたいって言い始めたのに」

まぁ公園に寄りたいって言ったのは俺なんだけど。




あれ…待てよ?
これ、万が一成功したら…かなり困る。
だって貞子持ち帰りとか怖すぎて心臓爆発するわ!

「…先輩、俺がビビりだって知ってて面白がってたんだな。畜生」

後輩をなんだと思ってやがる。


「…はぁ……。早く終わらせよ…」

俺ははや歩きで貞子に近づいていった。一歩足を出す度に不思議と北風が行くなと言うように強く吹き付ける。

そうだ。絶対にふられるような台詞を言ってさっさと帰ろう。もう恥ずかしくてもなんでもいい。

早くあったかい我が家に帰ろう。

「…」

ベンチの前に立つと冷たい北風はおさまり、貞子の髪は動かなくなった。
近くで見る程不気味すぎるこの物体。





勇気を出せ、男だろ狩野龍登。
んなただの女にビビってんじゃねーよ、狩野龍登。
頑張れ、狩野龍登。


「あ、あの…おじょーさん!」

違う!違うぞ狩野龍登!!何がおじょーさんだよ!お前はどっかのおっさんか!!

「え、えっと…君、見た感じ彼氏いなさそうだねー?てか経験ゼロ?俺ん家来ていいことしない?」

グッジョブ俺!!!こんなこと言われてついてく女とか女じゃねー!!てか俺経験ゼロ!!付き合った事もねーよこのやろう!!

貞子は返事をしなかった。

「あ、ご、ごめんね~!んじゃ、気をつけてね!」


よし、おさらばだ。

そして俺は貞子に背をむける。



でも、何故か俺は前に進めなかった。
腰の辺りに小さな違和感があり、振り向くと貞子がいつの間にか立って俺の服の端をちょこんとつまんでいた。

「え…あ…あの?」

まさか俺、貞子を怒らせたとか…?え?俺、死ぬの?

「…………し…い…」

微かに聞こえた声は想像以上に高い。しかし下を向いて顔が隠れているため何を言っているかは聞き取れなかった。

「…え?」

すると貞子は突然大きな声をだして俺の肩を力強く掴んできた。

「…うらめしいいいい!!!!!」

「ぎゃふゃぃうわあああああぁぁぁぁぁ!?!?!?」