「…じゃあ言い出しっぺの隼斗が行けよ」

俺は先程話している途中でずれた眼鏡を直しながら言った。

「俺ん家、親も妹もいるから教育上悪いし無理だ」

いや、なんだよそれ。

確かにあの真面目な隼斗が家に女を連れてきたとなればきっと家族皆不安になるだろう。

「うーん…そうだな…」

だからといってそれを受け入れる先輩もどうかと思うが。

「先輩、それだったら俺の家も一応姉貴がいるんで無理だと思います!!」

俺の家には姉貴が二人。親はあまり家にいないが、姉貴等に女を連れてきた所を見られれば物凄い勢いで問い詰められる。それがかなり面倒くさいのだ。

「いやー、実は俺ん所も可愛い妹と弟がいるんだよねーってことで絶対無理!」

気持ちの悪い程清々しい笑顔ですね!ムカつきます!

極度のシスコンかつブラコンの枢木先輩。そういえば何年か前のバレンタインデーの日に、妹からチョコをもらったという自慢話を一日中聞かされた事がある。

「仕方ないですね。じゃあ帰り…」

「じゃあジャンケンだな!」

先輩の頭ぶっ飛ばしていいですか?いいですよね?俺の頭の中にあるアホ探知機が“先輩“を指しています。これは殴ったら治りますかね?

「先輩、可愛い妹や弟が汚れるかもしれないのにいいんですか?」

隼斗が良い質問をすると、先輩はぐっと拳を前に出した。

「俺はあいつらのためなら勝てる!」

「どういう理屈っすか…」

俺は呆れて今日何回目かのため息をつく。

「それにジャンケンは公平だからな!ほら、手出せ!!」

もうこうなったらこの右手に全てを賭けるしかない。
諦めた俺は隼斗が出した後、渋々続いて出した。

「いいか?負けたやつが行くんだぞ!!んじゃ、さぁいしょぉはぐー!じゃあんけぇんほい!!」






先輩の合図にのせて、出した結果は…先輩がグー、隼斗もグー。




そして俺が…チョキ。


「どわあぁぁぁ!!あーもうさいっあく!!うわぁぁぁやだやだやだ!」

俺は頭を抱えてそこにしゃがみこんだ。

「ふっ…。男らしい拳を出さずにひ弱なチョキを出したのが間違いだったな狩野君!」

先輩はふざけて笑っていたのだが、こっちはそろそろ本気で泣きそうになった。