「先輩、隼斗。ちょっとだけ公園寄っていきません?」

ナンパ失敗のまま帰るのもあれだったので、なんとなくぶらぶらしたい。
そう思って軽く提案した。

「オレは帰る。もう遅いだろ」

隼斗は生真面目で、友達にはノリが悪いとか言われている。それは確かにそうで、俺も少しだけ寂しかったりした。

「今日をナンパだけで終わらせるのもあれだろ?三人でダラダラ話そうぜ」

「…面倒くさい」

このような冷たい返事はいつものこと。公園に行くのが面倒くさいのか俺について行くのが面倒くさいのかは寂しいので考えたくない。


「先輩は寄りますか?」

先輩に話をふると、先輩は珍しくマジな顔をして、

「…あ…いや、ちょっと待て…」

なんだよ先輩まで。ナンパ手伝ってあげたんだしついて来てくれたっていいじゃないか。

しかし、一対二じゃ仕方がない。

「すみませんでした。んじゃ、帰りましょうか」

「あぁぁっ!だから待てって!」

突然慌てて先輩は俺の長いマフラーを引っ張った。

「ぐへっ…な、なんすか先輩!?」

先輩は公園のベンチを指差して俺に力強くしがみついてくる。
先輩が俺より小さくて助かった。隼斗ぐらいデカかったら俺はきっと押しつぶされている。

「いるんだよ!よく見てみろ!!ほらあそこ!貞子がいるんだって!」

先輩は涙目になって必死に訴えてくる。

「は?貞子?」

指を差されたベンチをよく見るとそこには、髪の長い女の人が下を向いて座っていた。
街灯もなく、目を凝らさなければ見えない暗さ。その中で小さく揺れている髪が微かに見えて、かなり不気味に見えた。

…ていうか…貞子!!??

「えっ!?なんだよあれ!?は、早く帰りましょうよ!」

「安心しろ、龍登。本物の貞子がわざわざこんな公園に現れてくれるハズがない」

何本物かもとか期待しちゃってんのこいつ!?

隼斗の目が、今日一番に輝いている。

安心も何も怖いものは怖い。隼斗と違って昔から俺はビビりだった。日本人形を見るのでホント精一杯。

「ん?…あいつ、足あるぞ?透けてもないみてーだし…幽霊じゃないのか…?」

先輩は幽霊じゃなければいいらしい。

「分かったぞ二人共!あれはれっきとした“生きている“女だ!俺の生命レーダーがそう言っている!」

「なんですかそれ…。つか本物なわけないじゃないすか」

訳の分からない事を言って納得する先輩。うんうんと頷いてそうかそうかと笑っている。

そりゃまぁ“本物の幽霊だ!“とか言われても困るけど。

「……はぁ。じゃあもう帰りましょう」

俺はとにかく一刻も早くここから離れたくて、一歩足を踏み出した。

「待てぇい狩野!!」

またもや先輩は俺のマフラーの先を掴んで強く引っ張った。

「ぐへぇっっ!?」

さっきよりもかなり引っ張られたので俺は咳き込んでしまう。
少しは手加減してほしいものだ。

「狩野!俺の言った事ちゃんと聞いてたのか!?」

「けほっ…。はぁ?聞いてましたよ」

「いいか!?あれはれっきとした"女"なんだ!」

女という言葉が強調され、まさかとは思ったが。

「…先輩……もしかして…」



「その通り!これが今日最後のナンパ(チャンス)だ!!」