冬の夜。
といっても、真冬の寒さなわけでも、コート無しでいられる寒さなわけでもない。
雲が月を隠して、より周りを暗く見せる中、駅を出てから俺達三人は街灯の光を頼りに歩いていた。
「あーあ!まぁた一人も釣れなかったな」
そう言って小石を軽く蹴ったのは、ハチミツ色の髪が特徴的な枢木啓太先輩。
“釣れなかった“とは、“女をゲットできなかった“ということだ。
「先輩。もう諦めてナンパはやめましょう。時間の無駄ですよ」
少しキツい言い方をしたのは、幼馴染みの大谷隼斗。隼斗は背が大きいため、先輩と俺は見下ろされる形になる。
「大谷貴様!俺は先輩として後輩に色んな事を学んでほしいと思って連れてってやったのに!」
「もう七回目ですよ」
何をしても冷静な隼斗には、先輩も返す言葉が無いだろう。
「お、お前はモテるからいいかもしんないけど、俺はなんとしても高校生活を華にしたいの!」
「そっちが本音ですか」
「うるさい!お前もそう思うよな!狩野!」
いきなり同意を求められた俺は「え?」とつい聞き返してしまった。
「だぁかぁら!高校卒業する前には彼女つくりたいよなって言ってんの!」
「あ、いや…そりゃまぁ…。…んでもナンパじゃなくて純粋な恋愛したいっすね」
俺はとりあえず先輩の機嫌を気にしながら自分の意見を述べた。
「…どいつもこいつも…。そんなんじゃ女と手も繋げねーぞアホ!」
枢木先輩のアツい所は好きなのだが、俺はどうもこれに関しての対応の仕方が分からない。
「…はぁ」
小さくため息をつくと、マスクをしていたために、掛けていた眼鏡が曇った。