春だというのに、珍しく遅雪の降った日。

森口雪那(もりぐりゆきな)は、田舎の総合病院の中にある産婦人科で産声を上げた。

予定日より一カ月以上も早く破水したために二千キログラムにも満たない未熟児だった。


『せめてもう一日早く産まれてくれていたら』

それが両親の口癖になった。

雪那の誕生日は四月二日なのだ。

一日前なら、小学校の入学が約一年延ばせたと両親は考えたのだった。


体が小さい分、雪那には辛い体験が待ち構えている。

授業には付いていけるのか?

運動会は? 遠足は?

悩みの尽きない両親を余所目に、雪那は成長した。

三人兄弟の長女として。

健康的な女子高生として。


そう何時の間にか普通の少女に育っていたのだ。

 雪那には悩みがあった。

高校三年の三学期に入っても、就職先が決まらなかったのだ。

派遣切りに端を発した就職難民。
ワークシェアの問題等。
高卒予定女子は厳しい現実に苛まれていたのだった。

三者面談。
入社試験。
面接。

何度も繰り返す不合格。

その度に落ち込む。
その度に受かったクラスメートを羨ましがる。
でも何時かはと、望みを棄てずに貼り出される就職募集用紙を眺めていた。


高校の就職情報が解禁されるのは七月一日。
就職試験が始まるのが九月十六日だった。

雪那も積極的に試験会場に足を運んでいたのだったのだが……