智希には、抱き締める事意外出来なかった。

「ごめん。ずっと後をつけていたのに、雪那気が付かないんだもん。心配したんだぞ」

智希の優しい言葉に、雪那はもっと号泣した。


何が起こったのかと、野次馬が二人を取り囲み始めた。

智希は雪那の手を掴み、其処から走り出した。

なす術もなく、雪那をアパートに連れて行った智希。

暫くはノックも出来ず佇んでいた。

「どうしたの?」
リーダーが突然ドアを開けた。

雪那は驚きの余り又泣き出した。

智希は仕方なく下着の入った袋をリーダーに見せた。




 「袋が破れていたんだ」

智希はその言葉を繰り返した。

「お母さんへのプレゼント何だって」

しょんぼりと智希が言う。

「お母さんのねぇ?」
リーダーは雪那に目配せをした。

リーダーにはバレバレらしかった。
雪那は頬を一層赤らめた。

「あ、失礼致しました」

雪那は会釈をして、その場から逃げ出した。

黒い紐パンとブラを智希に預けたままで……

家に帰ってから下着を忘れた事に気付いた雪那。

恥ずかしくて、体中が熱くなる。

――明日何て言おう?

――正直に勝負下着だと言おうか?

――駄目だ言えない!

雪那はまた堂々巡り。

答えのでない、自分に科した質問。

雪那はただオロオロしていた。




 更衣室。

朝の挨拶を交わしてから、思い切ってリーダーの前に立った雪那。

「あっこれ」
雪那が口を開く前に、リーダーが包袋を渡した。

中身は包装した下着らしかった。

「あっ、ありがとうございます」
それだけ言っただけで雪那は涙ぐんだ。

「ごめんね、あの馬鹿」

リーダーはそう言いながら、雪那に近づいた。

――えっ!

リーダーの内緒話に雪那は耳を疑った。

「えっ?」

それは嬉しい言葉だった。
雪那は咄嗟に聞こえなかった振りをした。

「だからね。あの馬鹿本気なのよ。本気で雪那ちゃんが好きなのよ」

今度はもっと驚いた。

いつの間にか内緒話では無くなっていた。

聞き耳立てた先輩が不敵に笑った。

「ヘェ〜。そう。そうゆう〜関係?」

雪那に迫る先輩。

「これ、何か言え」

肩で雪那を突つく。

雪那は頬を真っ赤にしながら、本当は嬉しいからかいに耐えていた。

「ごめん、ごめん。さあ〜仕事が始まるよ。あとは終わってから」

リーダーの一言で、場が引き締まった。

――流石リーダー!

雪那は益々尊敬した。そしてそれは、憧れと言う形に変化して行った。