雪那は又ダイエットを始めた。

もう無理な節制は止め、堅実な運動療法にした。

後ろ歩き。
体のバランス形成にもってこい。

スロージョギング。
長時間走れる。

スロースクワット。
下半身痩せに一番。

運動の前に、スチール缶。
空でもいい。冷やしてうなじに。

「雪那はそのままがいい」
と智希は言う。

それでも、ぷよぷよお腹は見せらんない。
雪那は又頑張った。

「ん? ぷよぷよお腹、何時見せるの!?」
自分で自分に突っ込んだ雪那。思わず吹き出した。


――そんなのはずっと先!


雪那は照れ笑い。

――でも勝負下着位は決めとかないと……

雪那は密かに、イケないラブを想像していた。


「ぷよぷよお腹の解消は、力を入れて引っ込める」
新聞記事に一番簡単なウエストシェイプの方法が書いてあった。

ただ意識して、気を付けるだけででも効くと言う。


「うん、これだ!」
雪那は早速立ち上がった。




 その日の夕食はばっかり食べ。
最初に野菜ばっかり食べる。
食物繊維が、胃の中で余分な油分などを排出してくれる。
次に肉ばかり食べる。

最後に主食ばかり食べる。
そうすることで太りにくくなるそうだ。




 デパートの下着売り場に雪那はいた。
勿論、勝負下着を見つける為だった。

――どれも派手だな〜。

雪那はいつも、見た目で可愛いブラを選んでいた。

でもここは一つ智希を喜ばせばようと、悩みに悩んだ末に黒を選んだ。

雪那は帰り道思い出しては笑った。

そして時々袋の中を見る。

何度確認しても黒い下着。

急に自分の行為が愚かに思えた。

――そんなのはずっと先の先!

もう一度言い聞かせる。

――まだデートもしていないのに。

 シュンとして歩いていると、いきなり後ろから抱き締められた。

驚いて振り向くと、悲しそうな智希がいた。
智希の頬に涙が走った。




 智希はさっきからずっと雪那を付けていた。

立ち止まってはニタニタする雪那に気付き、遠くの方から手を振った。

でも雪那は気付かずに、相変わらず笑っている。

きっと側に親しい誰かが居て、楽しい話をしているのだろう。

智希は気が気でなかった。

それは誰なのか?恋人ではないのだろうか?

智希は急いだ。

そしてもう少しで追い付きそうになった時、やっと雪那が一人で歩いている事が確認出来た。

袋の中を見ては恥ずかしそうに笑う雪那。

安堵の溜め息を吐く智希。

その瞬間、思わず抱き締めていたのだった。




 雪那は突然の智希の行動にたじろぎ、持っていた袋を慌てて後ろ手に隠した。

雪那には、智希の涙の原因が自分にあるなんて分かる筈がなかった。

いきなり抱き締められて、雪那は激しく動揺した。

「どうしたの?」
それだけやっと聞けた。

「だって……」
智希は言葉を見失った。

ストーカーの気持ちが少しだけ分かった。
好きになった人の後は追ってみたい筈。
迷惑とか考えるゆとりなんてある筈がない。

智希は黙ったまま雪那を抱き締め続けた。

雪那の手にした袋が、智希の手に触れた。

雪那が何度も確認した為なのか?
袋が少し破れ、中身が出ていた。

肩越しに確認すると、それは黒い紐のようだった。




 「何、この黒い紐?」
悪気なく智希が聞く。

雪那は表情を曇らせた。
勝負下着だなんて言える筈がない。

「あ、母のプレゼント」
咄嗟に嘘をついた。
「えっ、でも袋がボロボロだよ」

雪那は慌てて確認した。
智希の言う通り、袋が破れ中身が出ていた。

雪那は真っ赤になった。

事情を知らない智希はどうする事も出来ず、お道化るつもりで黒い紐をつまんでみた。

袋の中にあったのは、小さな紐パンだった。

「えっ!?」

智希は紐パンを手にしたままフリーズした。

雪那は慌てて紐パンを奪い返し、袋に押し込んだ。

その拍子に、袋はもっと破れ、一緒に入っていたブラが露出した。

余りの恥ずかしさに、雪那はとうとう泣き出した。