「いや、確かに森口雪那って言ってたぞ」
智希は腕を組んだ。

「あれっ。それ何か言ったかも?」
雪那も腕を組んだ。

「確か面接の時言った覚えがある」

雪那は頭の中を整理してみた。

「確かそんな事言ったような。そう言えばエコカー減税も言った記憶が」
だんだんと確信してきた雪那。

「ほらー、やっぱり雪那だった」
智希は雪那のオデコにデコピンをした。

「そんな偉い雪那にお願いがあるんだけど」
智希が勿体ぶって言う。

「なあに?相談に乗るよ」
雪那がお道化る。
それが雪那の精一杯な愛情表現だった。

雪那はイケメン女子の事ばかり気になり、よそ見ばかりしていた。

急に指された時頭がパニックを起こして、適当な後駄句を並べただけだった。

でもその発言が的を得ていたので評判になっただけだった。

面接時に失敗しないように、何度も練習した御社のクリーンエンジン。

それにエコカー減税をくっつけただけだった。
雪那は緊張して、上の空だったのだ。


「御社のクリーンエンジンかー」
雪那は何気に言った。


「えっ、雪那。そんなこと言ったの。それを言うなら弊社だよ」


「ありゃそうなの? でもセーフ。確かそれは言ってないから」

雪那は笑ってごまかす振りをしながら、智希の言葉を待っていた。