由貴は、もの心ついた時から施設で育った。

親の愛に恵まれなかった彼女にとって、それでも居る場所のあることが救いだった。

生きることで精一杯で、何かに期待するなんて想像もできなかった。

自意識が芽生える多感な高校時代も、お洒落をする余裕のない由貴は、ストーレートのおかっぱ頭に、いつも制服姿だった。

十人並みの容姿、と彼女自身は思っていたけれど、それは彼女の服装と髪型がそう見せていただけかもしれない。


そんな彼女にも、思いを寄せてくれる男子はいた。

お金のない由貴を気遣って、もっぱら図書館でデートを重ねた。

たわいも無い話で笑って、一緒にいるだけで楽しかった。

ファーストキスは夕暮れ時の公園で。

不意打ちのように重ねられた不器用なキス。

ぎこちなく抱きしめられた腕の中で、「好きだ」と小さく聞こえた声に胸が熱くなった。

それだけで十分幸せだった。

大好きだったユウ君。

だけど……

彼の部屋に誘われたあの日、お古の下着を見られるのが恥ずかしくて、由貴はそれ以上に先に進むのを躊躇った。

大きな家と優しい両親。

自分の現実とはあまりに違う彼の生活にこれ以上踏み込むことが怖かった。

次第に二人の関係はぎこちなくなっていって、由貴の就職が決まったことで二人の関係は終わった。

彼が合格したのは地方の国立大。

由貴の住みこむオモチャ会社の社員寮とは新幹線と電車を乗り継いで半日以上の時間がかかる距離があった。


——会いたいな


思うだけで身体は動かない。

由貴は傷つくことが怖かったのだ。