「ミアァ〜、そんな顔するなよ」

マスクにサングラス、帽子まで被って。

まるで芸能人のお忍びと見まがうような武装したいでたちで試験会場に出かけた美亜だったが。

結局、電車に乗る手前で引き返してきてしまった。

「試験会場へ行くまでがネックだったとはなぁ〜、俺の読みが甘かった。

ミア、ゴメン!」

頭を掻き毟りながら、弘幸は自分の至らなさに呆れるばかりだった。

試験準備は万端で、能力的には何の問題も無い筈だった。

が、1年近く引き籠りを続けてきた彼女にとって、道を歩く、人混みに揉まれて電車に乗る、といった芸当は一度でこなすにはハードルが高すぎたのだ。

「そんな顔するなって!

試験は年に二回もあるんだ。別に一度で合格する必要もないしな。

先ずは外出の練習から始めよう。

俺も最初は一緒に行ってやるから、徐々に慣れていけばいい。

あと半年あるんだ、なんとかなるだろ」

そう慰める弘幸の言葉を聞きながら、美亜は首を横に振って拒絶の意思を表明する。

「なんでだよ?

折角頑張ったんだ。お前の実力なら、受ければ絶対合格するって!

そうすりゃ、大学だって行けるんだぞ!!」

それでも美亜は首を横に振り続けた。