弘幸は学生時代、塾講師のアルバイトをしていたことがある。

だから、美亜の勉強をみるくらいお手のものだった。

彼自身は大学という最高学府に何の執着もなかったが、女性の自立に学歴が必要なことくらい彼にも理解できた。

美亜は自分に自信を持つ必要がある。

そして、何事にも動じない社会常識というものが、彼女の身を守る上で最大の武器になると、弘幸は考えた。

世の中には、知らないと損をしたり、騙されたり、流されたりする、そんな落とし穴が沢山あるのだ。

生きる尊厳を守る為、何かしら打つ手はあるものだ。

たかが学歴と侮るな。

少しずつ積み上げた知識と、知識によって得た知恵と。

そして築いた人間関係が、彼女にとってこれからの人生の糧になる筈だと弘幸は考えていた。

死ぬよりましな手はいくらでもある。

諦めなるな。

流されるな。

もう二度と、あんな悔しい思いはしたくない。

あんな悲しい思いはこりごりだ。


それは美亜の為というより、弘幸自信の償いの為だった。