弘幸は京大文一、現役合格の秀才だ。

彼は将来、弁護士になるのが夢だった。

がむしゃらに勉強した、という記憶はない。

持ち前の器用さで、受験を難なくクリアして、持ち前の明るさで新しい生活を謳歌していた。

けれども、突然その目標がつまらないものに思えて全てを投げ出したのだ。


「おまえなぁ、それって一時の気の迷いじゃね?」と坂田が言った。

「お前に俺の気持ちがわかってたまるかよ」弘幸が言った。

「妹のことがひっかかってんだろうけど、それってお前のせいじゃねぇだろ?」

弘幸に掴みかからんばかりに詰め寄って坂田が叫んだ。

「お前に俺達の何がわかるていうんだよっ」

「わからねぇし、わかりたくもねぇよ! 俺にとっては目の前のお前だけが現実だ」

「あれは救えた命だった。

俺の未熟さが招いた事故だ。

……だから、俺は自分が許せねぇんだ」

弘幸の苦痛に歪む顔を見て、さすがの坂田もそれ以上弘幸を引き止めることを諦めた。