「あんた、ホント、何処に行こうとしてるの?」
上手く世渡りしているように見える息子の、何処か刹那な状態が幸恵には心配でならないのだ。
「えっ、俺、何処にも行く予定なんかねぇよ」
「場所じゃないわよ、あんたの心」
「俺のハートは誰のもんにもなりませんよ。
売れっ子ホストですからねぇ」
「わたしは真面目に心配してるの」
「大丈夫だよ」
「アリスを救えなかった償いをしようとか……」
「思ってねぇよ!
そんなくだらねぇこと考えちゃいねぇよ!
ただ俺の周りにほっとけない奴らが集まってくるだけだよ」
「神様はあんたに何を求めておいでなのかね」
「おふくろ、いつから信心深くなったんだよ?」
「わたしは信じてるよ、昔っから、神の存在を」
信仰心というものとは少し違う。
絶対無二の運命を操る大きな存在、幸恵はそれが神だと思っている。
そして人間はその運命には逆らうことはできない。
生まれて生きて、そして死ぬ。
「へぇ〜、 初耳だ」
「ねぇ弘幸、アリスは無に戻ったの。
苦しみも悲しみもない無の世界。
そこは、多分、神様のいる天国」
「天国がそんないいとこなら、みんな死にたがるじゃねぇか。
死んで救われるなんて臭い考え、俺は到底受け入れられねぇな。
アリスは苦しみぬいて死を選んだ。
そんな選択を強いたのは俺だ。
神様の目は所詮節穴さ、そんなことも見抜けねぇんだから。
だから俺は自分で自分に罰を与える」
「弘幸、そういうのを愚か者って言うんだよ」
——ほんと、どうしようもないバカ息子だよ!