女四人で食卓を囲んで、静かに夕食が始まった。

野菜炒め、湯豆腐、ご飯に味噌汁。

もともと無口なのか、食卓の会話は弾まない。

「あ、美亜、今度の滞在は3週間くらい。

今の取材を出版社に持ち込んだら、また直ぐ現地に戻るから」

幸恵が思い出したように口を開いた。

小さく頷く美亜の横で、由貴が驚いて顔を上げる。

「現地?」

「あれっ? 弘幸から聞いてない?

わたしはフリーのフォトジャーナリストなの。

今はサラエボの復興の様子を取材してる。

ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争が終結してからそろそろ20年。

戦争の傷跡は癒えたかのように街は復興を遂げている。

でも、その影にはまだ暗い現実も残されているのよ」

「お母様はそれを写真に撮られてるんですか?」

「わたしの場合は記事も書くの。

戦場フォトみたいな直接的に訴えかける写真とは違って、背景がわからなければ見えない真実もあるってこと」

「凄い。あたしなんて、今日を生きるのに精一杯で……、世界に目を向けるなんて出来そうもありません」

由貴が羨望の眼差しで幸恵を見た。

「それが普通。

わたしが異常なの。

わたしの場合、今日という現実に目を背けて、世界を逃げ場にしてるだけ。

褒められたもんじゃないのよ」

「……」

彼女の強い否定の言葉に驚いて、由貴は黙り込む。

それっきり会話は途絶えてしまった。