美亜が居なくなり、由貴が家を出て、お袋はほとんど家に帰って来なくなった。
半年に一度ほどの割合で、海外から生存確認の絵葉書が届く。
母はジャーナリストだ。
今こそ何のしがらみもなく自由に仕事ができて幸せなのかもしれない。
俺ももう三十、心配される歳でもないし。
けど、一人にはあの家は広すぎる。
人気のない一軒家に帰る寂しさは、この歳になってもあるわけで。
あの家売って、マンションにでも越すか……
何度そう考えたかわかんねぇけど、美亜が戻ってくるかもしれないと思いとどまってきた俺だ。
ドアを開けたらそこには美亜が、なんて妄想を何度抱いたことか……
あぁ、また妄想が出たよ。
なんか家の前に女が見える。
ったく、俺もたいがい女々しいなぁ〜
「ヒロ兄、おかえり」
空耳まで聞こえやがる。
「ヒロ兄?」
やけにリアルな目の錯覚だな。
「わたしだよ? わかんないの?」
ふんわり良い香りがして、柔らかい身体が俺に抱き着いてきた。
まさか美亜を忘れる筈がない。
信じられないだけだ。
「ミ、ミアか?」
どもる間抜けな俺。
「うん、ミアです」
「ホントか? 夢じゃなく?」
「うん、幽霊でもないよ」
「戻ってきたのか?」
「うん、ただいま」
「もう何処へも行くな。いや、行かせない!」
「うん、わたし、もう何処へも行かないよ」
俺は、ただ夢中で美亜の身体を抱きしめた。



