「お前、なんか最近、地に足ついてきたじゃねぇか。
って言っても、この事務所は地上5階なんだけどよ」
ったく、いつものことだが面白くない冗談だ。
坂田の緩んだ顔をチラ見して、俺は足元の靴を磨いていた。
俺達は、勝の山田ビルの5階に格安で間借りさせてもらうことになったのだ。
以前勤めていたホストクラブと同じビルってとこが引っかかるが、駅近で立地は良いし、何しろ家賃が安いのがありがたい。
『あたしだって所謂、社会的弱者よ。
いつ何時弁護士先生にお世話になるかわかんないもの。
ここで恩を売っておいて損はないわ』
そういう物の言い方は勝らしいが、本音では俺達のことを心配してくれているのはわかっている。
孝太の母親の仕事も紹介してもらったし。
ほんと、勝には頭があがんねぇわ。
「おらおら、どんどん仕事よこせよぉ〜
今なら、どんな面倒な案件も地道にこなす自信があるぜ」
「そうでなくちゃ」
貧乏人相手の俺達の仕事じゃ、弁護士料もたかが知れてる。
けど、弁護人に有利な証拠を探す為なら、足が棒になるまで歩いて聞き込みをする。
最近俺にもわかってきたんだ。
俺達が請け負うのは単に裁判に勝つことだけじゃない。
彼らのこれからの人生を、生きる望みを勝ち取ることこそ重要なのだ。
それにしても、靴の減りが早いぜ。
いくら上辺を磨いても、靴底がペラペラだ。



