坂田に言われて、その場は引き下がった俺だが、奴の態度には解せないところがあった。
奴とは長い付き合いだ。坂田は思いつきで動く男じゃない。
勘とでもいうべきか、奴は何かを知っている。
だいたい、なんで美亜がこの辺りに戻って来てるなんて断言できるんだ。
まぁ、あいつは長いこと警察にいたわけだし。あの事件にも関与してたんだ、被害者情報に詳しくなってもおかしくはない。
けど、俺があずかり知らない美亜の事を、あいつが知ってるってところが気に入らなかった。
そうこうしているうちに、孝太の両親の離婚が成立した。
面接交渉権を巡って交渉は難航したが、孝太の母親である宮田菜月の就労先が決まり、経済的自立が証明されて、親権および監護権ともに母親が引き受けられることになったのだ。
DVの事実も認められ、父親の面接交渉権は剥奪された。
孝太が成人し、彼が望んではじめて父親は孝太に会うことができる。
まぁ、それまでには父親の関心も消えて無くなるだろう。
奴の矛先は、あくまで妻である宮田菜月にあったのだ。
DVの発端も、孝太が産まれたことにあると聞いていた。
子供が産まれて、自分への関心が薄れたことに腹を立てた宮田将太が、菜月へ手を挙げるようになったのだ。
そんな精神的な不安定さから仕事も上手くいかなかくなり、暴力は更にエスカレートしていった。
身の危険を感じた菜月は、幼い孝太を連れて夫のもとから逃げたのだ。
宮田将太は妻子を追って全国を周り、その先々で揉め事を起こして警察のやっかいになった。
15年だぞ。
気が遠くなるほどの年月だ。
その間、親子は気の休まる間もなく逃げ回ったんだ。
最低の男だな。



