「止めとけ」


焦る俺とは対象的に、坂田はあくまで冷静だった。

「坂田、邪魔するなっ!」

必死に坂田の腕を振りほどこうとする俺は、まるで駄々をこねる子供だ。

「もしミアちゃんだったとして、彼女はまだ姿を現すつもりはないんじゃないか。

ちょっと様子を見に来ただけなんだろ。

今まで待ったんだ。

彼女の気が済むまで待ってやれよ」

「けどな……」

「ば~か、まさかコウタがお前の子だとか思う訳ないだろ」

さっき孝太に聞いたよ、と坂田はあくまで落ち着いていた。

「表札は袴田のままだし。

もしミアちゃんだったとして、彼女は姿を見られて気まずくてコウタに話しかけたに過ぎないよ」

「けど……」

「ミアちゃんは生きてこの辺りに戻って来てる。

それがわかっただけでも良かっただろ。

お前がいつも言うように、この空はどこまでも一つ。

どこかでミアちゃんと繋がってる。

近い将来、再会の時は必ずくる。

焦るな」

「それはそうだが……」

「ヒロ……、今晩も月が綺麗だぜ……」


坂田に促されて空を見上げる。

そこには確かに、綺麗な月が浮かんでいた。