「ヒロ先生! 先生ってば、俺の話聞いてる?」

「わりぃ、意識飛んでたわ」

「見てよ、できた、答えもあってる」

「おう、コウタ、やればできるじゃねぇか!」

孝太は父親のDVから逃れるため、小学生の頃から母親と一緒に日本各地を転々として生活してきた。

それ故、学校も行ったり行かなかったり。

DV被害者の会の紹介で彼の母親が俺達の弁護士事務所に離婚訴訟の相談に訪れたのを機会に、俺はこいつにも学習支援という形で関わっている。

孝太は母親思いの良い奴だ。

だが、長年の放浪生活のせいで彼の学力は小学生並み。

このままいけば、世間からドロップアウトすることが目に見えている。

離婚が上手く成立して、晴れて自由の身になったとしても明るい未来は見えては来ない。

それじゃぁ、俺達が目指す理想的解決には程遠い。

「今日はこれくらいにしとくか。

この問題、明日までにもう一度自分でおさらいしておくように。

コウタ、明日も待ってるぞ」

「うん、わかった。

ヒロ先生、ありがとうございました」

玄関先でペコリと頭を下げた孝太は、中学3年だというのに、身体つきも小さくまだまだあどけない表情の残る少年だ。

「気をつけて帰れよ」

俺はそう一言かけると、孝太を家に帰した。