美亜は誰よりも沙希や由貴の幸せを願っていた。
甲斐甲斐しく二人の世話を焼いたのも彼女だったし、二人に気兼ねが無いように心を砕いたのもの彼女だった。
それは、袴田家に居候として先に住まわっていた自分の務めだと思っていたし、弘幸の好意を無駄にしたくないという思いからでもあった。
後先考えずに、他人の不幸を背負い込んで、身近に引き受けてしまう彼の遣り方は、一つ間違えば共倒れにもなりかねない。
特にそれが若い女性であれば、世間の目も厳しいものだ。
だから、美亜は弘幸に代わって、彼が引き受けた少女達の世話を焼いた。
思うように生きられなかった自分の分まで、二人には幸せになってもらいたかった。
幸い沙希は、家族との関係が修復して家に戻ることができた。
由貴は将来の目標を定めて、歩き出したところ。
二人は心の傷を癒し、幸せな未来に向かって進んでいる。
——わたしの場合、傷ついたのは心だけじゃないからね……
「ミア、このリンゴ、蜜入りじゃね、甘いな」
美亜の剥いた林檎を頬張る、屈託のない弘幸の顔を見ると少し辛くなる。
——自分はもしかしたら、この人の好意さえ、生きる為に引き受けようと思っているのじゃないだろうか?
愛と打算の線引きは難しい。
美亜は自分の気持ちに折り合いをつけかねていた。