雄一の下宿は大学正門から目の前のアパートの二階だった。


「敷地が広いから、これでも教室まで走って10分かかる」

なんて嘘みたいな話だ。

1DKの木造アパートは、ユニットバスも備えた十分な造りだ。

恵まれた環境で生活していたことが良くわかる。

荷物を詰めたダンボールが部屋の隅に積まれていた。

「本は粗方荷造り済んだんだ。

後は生活用品。まぁ、実家に戻るから、ほとんど不要品なんだ。

いらない家電は後輩に譲ろうと思ってる」

勉強机を兼ねた食堂のテーブルに向い合って座り、雄一が部屋を見回しながら説明してくれた。

「ユキ、先にシャワー浴びる?」

雄一がおもむろに立ち上がった。

椅子の軋む音に反射するように、由貴はピクリと肩を震わせた。

「ユキ?」

「ユウくん?」

「ん?」

「わ、わたし……、やっぱり怖い……」

「俺も怖い」

「えっ?」

雄一の意外な言葉に由貴は驚いた。

「ユキが俺を受け入れてくれるか、凄く怖い。

また強引に迫って逃げられたら……、俺……、後悔してもし切れないよ。

高校三年のあの時、ユキを家に誘ったこと後悔してる。

あの時誘わなければ、ユキはそのまま俺との関係を続けていたかもしれないだろ」

「ユウくん……」

「確かに、俺はユキに触れたかった。

けど、身体に触れたかっただけじゃない。

いくら寄り添っても縮まらないユキとの距離を、なんとか埋めたかったんだ」