半ば強引に新幹線のチケットを手渡されて、由貴は正直少し嬉しかった。
こんな風に一歩踏み込んで誰かが自分に近づいてくれる。
それが大好きな雄一であれば尚更だ。
万事が受身の由貴は、断ることはあっても、自分から積極的に誘うことはない。
雄一は、二度に一度は断りの言葉を口にする由貴を、いつも強引に誘い出してくれた。
「嫌よ嫌よも好きのうち、ってね。
ユキは結構天邪鬼だから、俺が強引にならないと絶対前に進めないってわかってる」
雄一はそう言って、由貴の後ろめたい気持ちを拭い去ってくれるのだ。
二度に一度はデートの誘いを断りたい気持ちは、お金が無いのと、雄一の時間を無駄にしているようで気が引けるから。
雄一を好きな気持ちは日に日に膨らんでいく。
反面、いつか必ず別れが訪れる、由貴はそう信じて疑わなかった。
その時を思うと由貴は苦しくて切なくて、このまま時が止まれば良いのにと願わずにはいられない。
——最期の最期で、駄目出しされるとか耐えられない。
施設育ちの自分の生い立ちが、二人の将来の障害になることは目に見えていた。
いくら雄一が良くても、ご両親が許さないことは由貴には容易に想像できた。
「ユキ、好きだよ」
それでも今日も雄一は由貴を洗脳しようと愛を囁く。
「ユキ、綺麗だ」
由貴には自信が必要だ。
人は生まれではなく、生き方が全てなのだということ。
雄一はわかって欲しかった。
彼が愛して止まないのは、彼女の真っ直ぐな生き方そのものだということを。