「あら、太一くん寝ちゃったの?」

片づけを終えて居間に戻ると、今までテレビを観て寛いでいた太一が身体を横たえて眠っていた。

「明日は日曜だもの、泊めてあげれば?

わたしもうっかりしてたけど、もう遅いし」

太一に膝掛けをかけながら美亜が言った。

「えっ、でも……」

「お母様も出かけてらっしゃるんだったら、携帯に連絡してみたら?」

沙希は一瞬躊躇した。

母との対話をずっと避けてきた沙希だったから。


——上手く話せるだろうか……


沙希は、母と対峙すると知らず知らずのうちに身構えてしまう。

母の中に自分の居場所がない。そのことを認めたくなくて、去勢を張ってしまうのだ。

「泊まるんだった早目に連絡しちゃおうよ、お風呂もあるし」

「そうだ、そうだ」

沙希が戸惑っていると、足元から太一の声が聞こえてきた。

「姉ちゃん、母さんに早く電話してよ。俺、もう泊まる気満々だから」

寝ていた筈の太一が目を擦りながらも意気揚々と笑っていた。


——まったく、人の気も知らないで……