ポケットには妖精

私は慌てて菅原君の右手をつかみ、ジッと見つめてあちこち触る。
ハサミを持つ手だよ。
怪我したら大変だ。

「ここ?ここ痛い?曲がる?あぁどうしよう。私のせいで菅原君の手が動かなくなったらどうしよう。大事な大事な手なのに」
菅原君の手をあっちに向けけたり、こっちに向けたり。
半泣きになっていると

「手じゃなくて、背中をぶつけただけだから」
低い声でそう言った。

手じゃなかった。

よかったー。
ヘナヘナと崩れそうになった私に、また菅原君は手を貸してくれた。

「ごめんなさい」

「いいよ」って笑ってくれた。

今朝と同じ。
でも
こんなに近くで菅原君の笑顔を見れた。

私だけに笑ってくれてる?
今だけ
カン違いして、調子にのっていいかな。

今だけで終わるから。

「城田?」
有南さんの声が聞こえ
我に返って菅原君から離れる。

「大丈夫だった?」
心配そうに傍に来てくれた。

「はい」

「拓真ナイス」
仲良さそうに有南さんは菅原君の背中を叩き「ロッカーより痛い」って菅原君が言う。

「すごい風だったねー」

「そうですねー」
話をしながら
ポケットのクミンをにらむ。

「急接近できてよかったねー」
私だけに聞こえるのん気な声が、妙に腹立たしい。

けど

急接近だった。

ドキドキしたね。