ポケットには妖精

「今、終わります」
心臓をバクバクさせながら、モップを片付けてクミンの入っているブレザーを着る。

別に
有南さんに後ろめたい事はしてないのだけれど、菅原君に髪を切ってもらって、気を悪くさせたかもしれない。

「らしくない人形」
有南さんはクミンを指差し笑ってる。
ちょっとポケットの中でムッとする妖精。
でも
「憎めない顔してる。可愛い」と、言ったので、インドの妖精は気をよくしていた。
やれやれ。

「拓真がとっとと帰っちゃったから、城田が気になって戻ってきちゃった」
笑顔がまぶしい。
美人オーラ全開。

ふわりといい匂いがする。
バラの香りだろうか。
艶のある長い髪、全てのパーツが綺麗な顔の人。
片岡さんみたいな読者モデルって感じじゃなくて、もっと遠い存在のステージに出るようなモデル系の華やかな人。

そんな憧れの存在が
私の為に戻って来て
話しかけてくれるので、ぽーっと舞い上がってしまう。

しかも
「ヘアワックスとか買いに行かない?」
誘ってもらった。

私が返事をする前に
ポケットの中でジタバタしている妖精がいた。

もう会話に集中できないよ。

「行きます」
ポケットの中のクミンを内側に反転させ、私はそう返事をした。