ポケットには妖精

「あれ?矢口さんは?」
温かいおしぼりを手にし、夕食を用意する私に聞く。

「先輩は風邪気味だから、先に帰ってもらった」

「そっか。そういえば、今日片岡から電話来て予約入れてった。近いうちこっちにも食べに来るって」

「ホント?嬉しいな」

片岡さんは成沢君とは別れたけど、可愛らしさに磨きをかけ、読者モデルから本当のモデルになり、雑誌の表紙を飾る売れっ子になっていた。

拓真用の夕食を出し
美味しそうに食べる彼を見ると幸せ感じる。

私の作ったお弁当を食べる
高校時代と同じで笑ってしまう。

「あ、次の定休日に由実ちゃんと会う約束したの。ごめんね」

「いいよ。俺は仕事だし、ゆっくり会えばいい」

大人しかった由実ちゃんは得意の英語を生かし、大学で留学し、そのまま海外で就職し、そこで一流企業のイギリス人の旦那様を見つけて結婚。先週里帰りで帰国していた。

人生って面白い。

「今日、店に早紀ちゃん来た」
食事をしながら普通に言うので、思わず突っ込んでしまう。

「また予約もしないで拓真に切ってもらったの?」
拓真なんて予約は3ヶ月待ちなのに、あの子ったら。

「そこで断らなきゃ」

「でも『お義兄さんお願い』って言われたら、こっちもダメとは言えないよ」
優しく笑って彼は言う。

まったく
甘いんだから。

そう言いながら
私は彼の笑顔に魅了される。

素敵な笑顔は変わらない。