そんな頃

同じ職場で働く女の先輩が、店を辞め独立する噂を聞いた。

信頼していて
大好きな先輩で
拓真と別れたばかりもあり
ショックでショックで頭が真っ白になっていると

『春菜ちゃん。一緒にやろう』と声をかけてくれて

私は『お願いします』と即答した。


今までの忙しさと違う
やりがいのある充実した忙しさが私を待っていた。

小さい物件だけど店を見つけ
スプーンの一つからこだわりを持ち
見かけも中身もシンプルで美味しい洋食屋を目指した。

忙しさに身をまかせ
拓真を忘れようとしている自分がいた。

先輩は素敵な旦那様と可愛い子供がいて、たまに会うたびにうらやましくて自分が悲しくなる時もあるけれど、それじゃ高校時代のイジイジして、何も自分で行動できない私を繰り返す事になる。

クミンに怒られる。

前に進もう。

拓真は腕の良さと顔の良さで美容師として名前をあげ、カリスマ美容師として有名になっていた。

たまに雑誌にも載ってるらしい。

先輩との店は順調で
口コミで評判が広がりリピーターも増え、嬉しい悲鳴を上げていた。

でもこうなると
前の店と同じに身体を壊し、満足な料理も出せなくなると、朝の10時から開店でラストオーダーは8時という早い時間に設定した。お昼のランチは戦場となるけれど、夜が早いから精神的にも肉体的にも楽である。

新しい店が開店1周年を迎えた夜。

お店に拓真が現れた。

顔を見て

ただ泣いた。

今までの寂しかった分
身勝手な自分に反省した分
拓真が恋しかった分

ひたすら泣いた。