「あいつ、相変わらずモテますよね」

その言葉にビクッとなる。
振り返るとそこに山中くんが立っていた。
その視線は澤田くん達の方に向いているけど、その言葉は私に向けられているらしい。

「えっ?」

何のことを言っているのか分かっているのに、つい気付いていないふりをしてしまう。
そんな私に山中くんは素直に教えてくれる。

「澤田ですよ、ほら」

「ああ~、・・そうね」

わざと見ないようにしていたのに、山中くんに『ほら』と視線を送られたら私も見るしかない。
そして引きつるように笑う事しか、今の私にはできない。
私こんなにダメな奴だったかな・・。
でも山中くんは気にする様子もなく、澤田くんと女子社員の方を見ながら話を続けた。

「あれだけ誘われていても誰とも付き合わないし。あいつマジで理想高いのかな?」

「さあ・・・どうだろうね?」

どうにも答えようがないことを山中くんは言う。
今現在は彼の理想は高くないみたいだよ・・なんてことは言えないし。
モヤモヤした気持ちを感じている私に更に被る言葉。
私達が付き合っていることを知らないのだから、山中くんが悪いわけじゃない。
そう心をなだめて話を続けていると、すぐそばから「おはようございます」と澤田くんのソフトな声が聞こえた。
ハッとしてその声の方に振り返ると、柔かな笑みを見せる彼がいる。