始まりは恋の後始末 ~君が好きだから嘘をつく side story~

「じゃあ、手を繋いでもいいですか?」

その言葉におもいっきり反応してしまう。

「もう!」

わざとだ!反対側の下りホームに楓達がいることを分かってて言っている。
ほら、こうして怒った私を見て微笑んで見せる彼は絶対に楽しんでいるのよ。
この人はこういう所を私には見せる。意地悪な面もある本当の澤田くん。
それは喜ぶべきなんだろうけど、今は別。
頬を膨らませて怒る私に、可愛らしく謝罪してくる。

「すいません」

「・・・・・」

そんなこと思っていないくせに!と何も返さない私に、もっと優しい声色を向ける。

「ごめんね、咲季さん」

「・・・知らない」

拗ねた言葉を返したところで、私達のいるホームに電車が入ってきた。
停車するのを待ちドアが開くと、彼は私の手を取って電車の中へ乗り込んだ。
そして電車が発車するとドアのそばに囲われる。
近い距離で私を見下ろし、発した声はさっきより艶っぽい。

「これからは恋人の時間ですよ」

「・・っえ?」

聞き返した私に、変わらず言葉を返してくる。

「僕の家に帰りましょう」

「今から?」

「うん」

「私、何の支度もないし・・・」

「服なら僕の服を着てください。足りないものは買って帰りましょう」

「でも・・」

「今度は僕のお願いの番ですよね?」

にっこり笑顔を見せる彼に勝てる気がしない。
そしたら返す答えは1つしかない。

「・・・はい」

小さく頷きながら了解した。
何だろう・・・。何故かいつも彼のペースに乗せられてしまう。
いいのかな?・・・うん、まあしょうがないよね。
そう心に言い聞かせながらも、彼のペースに乗っている自分を嫌だとは思っていない気がした。