「そんなに私はいい先輩じゃないよ。もちろん楓のことはいつも気にかけていたけど。あの子の気持ちが痛いほど分かってしまったから、どうにかしたくてしょうがなかっただけなの・・」

そこまで言って一瞬ためらう。前に2人で話した時は勢いで話せたけど、今はあまり言いたくない。でも自分でも澤田くんがどう思っているか気になることだから、はっきりさせておきたい。

「自分の実らない恋愛を楓の気持ちと重ねていたの。あのさ・・前に話したことだけど、私不倫していたって話したよね」

「はい」

そう答えた澤田くんの表情は全く変化がなくて読み取れない。

「自分でもいいことじゃないって分かってた。話すことじゃなかったって後悔してるの。澤田くんはそのことは気にならない?」

澤田くんに聞きながら心拍数が上がってしまう。こんなこと聞くべきじゃないのだろうけど、どうしても確認しておきたかったことだから。心配交じりの私に澤田くんは問いかけてきた。

「今もその人を想ってますか?」

「それはないよ。時間かかったけどちゃんと決着つけたから。今はない」

それだけははっきり言える。すると澤田くんは優しい笑顔を見せた。

「それなら僕は気にしません。今井さんがどんな思いで気持ちの区切りをつけたのか分かるから、それで十分です」

そんな風に言ってくれるなんて、澤田くん器が大きすぎるよ。嬉しさと感動で、何だか切なくなる。どんな顔していいのか分からないよ。自分らしくないけど何だかモジモジしてしまう私を見て、澤田くんがクスッと笑って私の顔を覗き込んできた。

「そういう正直な今井さんが好きです」

「あっ・・え」

また急な展開に焦ってしまう。対照的に真っ直ぐ見つめてくる彼につい逃げ腰になる。

「私、もう誰かの次じゃ嫌なの。私だけ見てくれる人じゃなきゃ嫌なの」

「僕は今井さんだけを見て、今井さんだけを愛します。もし柚原のこと少しでも気になるなら、これから僕のこと見てください。柚原に5年間片想いしたのは真実だから、それをなかったことにできないのは分かってます。信じてもらえるならこれから6年間今井さんに片想いします。それからでもいい、僕の気持ちに答えてもらえますか?」

何でもないことのように彼は言った。嘘でしょ?

「何言ってるの?意味わかんない」

「本当ですよ。6年片想いしても、あなたを僕のものにしたい」

やられた・・・。どんな口説き文句なのよ。澤田くんにそこまで言われたら、落ちないわけないじゃない。嬉しいよ、めちゃくちゃ嬉しい。でも少しだけあまのじゃくでいさせて。

「今から6年後、私いくつになってると思うのよ!」

「僕は咲季さんが何歳だろうとかまわない。でも咲季さんが気になるなら、今僕の気持ちに答えて下さい。咲季さんのこと大切にします。僕と付き合ってください」

もう素直になっていいよね。ごめんね、ありがとう。

「はい、よろしくお願いします」

そう答えた瞬間、温かく優しい腕に包まれた。