始まりは恋の後始末 ~君が好きだから嘘をつく side story~

「もう!お願い放して」

「どうして?」

片眉を上げ首を傾げて見せる顔には余裕があって、こっちが焦る。

「どうして・・って。そう!今何時?会社!」

「まだ5時過ぎだよ、大丈夫。今日はアポイントあるの?」

「そう、10時に」

今日は土曜日だけど、月曜日のアポイントが変更になり今日は休日出勤なのだ。

「それなら慌てる必要ないのに」

「でも家に帰って着替えなきゃ。ごめん、とりあえず帰る」

急いでベッドから降りようとしたのに、腕をつかまれて止められた。

「じゃあ、車で送って行くよ」

「送って行くなんて・・ダメ」

「どうして?勢いでしちゃった人に送ってもらうなんて我慢できない?」

「そうゆうことじゃないけれど・・でも」

ただでさえこの場所から逃げ出したいのに、送ってもらうなんて。彼氏でもないのに、こんな状況で送ってもらうなんてとんでもない。

「わかった。じゃあ、30分後にタクシー来るように連絡しておくから、とりあえず咲季さんはシャワー浴びてスッキリしておいで」

そう言うとやっと手を解いてくれた。そして立ち上がってクローゼットに歩いて行く、隠すことなく裸のままで。
その後ろ姿はやっぱり見惚れる位、綺麗だった。やだやだ!何見ているんだろう。すぐに視線を戻して見ないようにした。
聞こえてくる音で澤田くんが着替えていることを感じる。

「咲季さん、これ使って」

声の聞こえた方を見ると、澤田くんはすぐ目の前にいて2種類のタオルを差し出してくれた。
そして私に手渡すと歩き出し、ドアを開けた。

「浴室は奥のドアだから自由に使って。じゃあ、タクシー電話してすぐそこのコンビニに行ってくるからごゆっくり」

笑顔でそう言うとドアを閉めて、玄関も出て行った。
私服姿で立っていた姿を思い出す。あれは・・・もてる、もててあたり前だ。何なんだ!あの色気は。
暫く思考が止まっていたけど、手元のタオルを見て現実に戻った。やばい!早くシャワー浴びないと澤田くんが帰ってきちゃう。
急いで立ち上がったので、掛かっていた柔らかい毛布が落ちて身体が冷たい空気を感じた。

「あ!裸だったんだ」

すっかり忘れていた。お互い裸のまま抱きしめられていて、いろんなことに慌てていたのに。布団から出た澤田くんの裸の後ろ姿を見て、自分のことも思い出すべきだったのに。
それで澤田くんは外に出て行ってくれたわけ?私がベッドから出て、支度しやすいように気を使ってくれたの?
ううんダメだ、今はとりあえず時間がない!渡されたタオルを握り、急いで浴室に向かって歩き出す。