天使の涙



「ぎ…ギャァァアァ!ごめん!!…いっイタタタタ、やめ、ろ本当に外れるっ!!謝ってんだろ…っっ」


「美少年が痛みに耐える姿って最高やなぁ。見ててゾクゾクするわァ……ってするか!!キモいっ」


からかうことに飽きた先生は少年の身体を解放して立ち上がると、新しいタバコを取り出して火をつけた。


口からフーッと長い煙を一度吐き出すと、それを追いかけるように視線を上げる。


「凛なら駅の方に出掛ける言うて出てったわ。最近良く遊んでる樹里ちゃんて名前の子と一緒」


¨樹里¨と言う名を聞いた途端、少年は驚愕の表情を浮かべ、冷や汗を流した。


「…樹里、だと?」


「ああ、西嶋樹里や」

「……ッ」


それから互いに黙り込んだままの睨み合いが続き、タバコの灰が床に落ちる前に先生は灰皿に吸い殻をギュッと押し付けた。


「まぁ…大丈夫やろ。今んところ何もないみたいやけ」
「あってからじゃ遅ェんだよ。分かってんのか」
「だーから、用心の為にもちゃんと人を付けとるけ大丈夫っちゃ」
「そうだとしても…さすがに学校の中までは無理だろ」


「しっつこいなァ。そう思うんやったらお前が学校行けや」


そう言われた少年はプイッと顔を背け、口を尖らせて横目で先生を見た。


「俺には関係ねー」


そう言うなり、部屋を出て階段を駆け上がって行った少年を見つめ、先生は意地っ張りやねぇと眉を落として独り言を呟くと、大きく溜め息を吐いた。







巻き起ころうとしている大きな事件に、私はどうして気付くことができなかったのだろう。


止められなかったとしても、結末を変えることくらいはできたかもしれないのに。



・つづく・