天使の涙




「じゃあ明後日、また学校の屋上で会いましょ?」


「うん。またね」


互いに手を振って、私は樹里に背を向けて足を踏み出した。


突然、背後から鳴り響いた携帯の着信音。
どうやら樹里に電話が掛かって来たらしく、彼女は通話ボタンを押して、歩きながら話し始めた。


私はそれをさして気に止めることもなく、施設までの長い道のりを暗くなる前に帰ろうと歩く速度を速める。


「あ」


そう言えば今日はいつも読んでいる雑誌の発売日だった。
せっかく駅まで来たんだから、買って帰って家で読もう。


「また来るの面倒だしな」


クルリと身体をUターンさせて、本屋までの道を引き返す。


お目当ての雑誌を見つけて買うと、イソイソと店の外に出た。


「いや!!!放してよ!!!」


「ンだと、テメェ!!!」


細い路地裏から聞こえて来た、男女がもみ合う怒鳴り声。


関わりたくないからか、行き交う人達はそれに見向きもしない。


「いっ…痛い痛い!!!痛い!!!」


「静かにしろ!このアマ!!!ぶっ殺されてぇのか!!!」


強制的な男の態度。
悲痛な女の子の叫び。

それは…


それはまるで


『凜!!!お前は俺の玩具なんだよ。ヒヒッ…オトナのオモチャ、だ。わかるな』


「……っ!!」


竦む身体に鞭を打ち、私は路地裏へ駆け出した。


そこに居たのはサングラスをかけた細身で長身のガラの悪い男と、さっき私と別れたばかりの、


樹里。