天使の涙




「そろそろ行きましょうか」


「うん」


会計する為にレジに行こうとすると、何故か樹里に止められた。


店員の人がありがとうございましたと言って、店の扉を開けて誘導してくれる。


「お、お金は?まだ払ってない…」


「いいの。もう払っておいたから」


どうやらさっき私がトイレに行くと言って席を外した際に、先に会計を済ませてくれていたようだ。


「いくら?払うよ」


「いいからいいから。私に奢らせて?ね?」

「駄目…ちゃんと、払う」


一歩も譲らず食い下がる私だったが、彼女の「じゃあ今度来た時に凜ちゃんに奢って貰うから」と言う一言に、しぶしぶ納得して財布をバッグの中に戻すことになった。


施設暮らしの私は国から援助されている僅かなお金を頼りに生活している。
病気の母親は私の通帳に振り込む能力さえも無い為、お金の管理は代理人としてすべて畑山先生が請け負ってくれているのだ。


そして月に一度、私は彼からお小遣いと言う形で一万円を受け取っている。


だから自分の分の食事代くらいは出せるのに…。