恋の糸がほどける前に


「……甘いものが食べたいかも」

「ん、了解。じゃあ駅まで出るか。このへん何もないし」


結局なにも答えをくれなかったらしいスマホをポケットに戻して、歩き出す。


「え、いいの?」

徒歩で通う私たちにとっては、飲食店が多く立ち並ぶ、大きな駅まで行くのは遠回りなのに。

そう思って思わず訊くと、驚いた顔をされた。


「なんで。別にいいよ」

本当にそう思っているのだろう、明日から休みだし、と楽しそうに言う水原を見ていたら、なんだか私まで楽しくなった。

今日が金曜日でよかった、なんて。

気付いたら、そんなことを考えてる。


「……おー、降ってるなー」

昇降口から外に出ると、雨はまだ降っていた。

バサッと傘を開いて、先に外に出ていた水原の隣に並ぶ。


「……つか、もしかして三浦とメシいくのって何気初めて?」

「……そうですね」

「なんで敬語」


あはは、と楽しそうに笑う水原に、心臓がギュッ、と音をたてた気がした。


……水原のこういう屈託ない笑顔は、出会ったころから変わっていないのに、こんなに心臓に響くのはきっと私の方が変わったから。

どうして今までこの温かい笑顔をなんてことなく受け止められていたのか、今の私には理解できないよ。