「三浦……っ」
早くここから逃げ出したいのに、水原の横を通り過ぎようとした瞬間、グイッ、と腕を強くひかれ、阻まれてしまう。
「っ!」
「ちょっと待って。頼むから」
私の腕を掴んだまま、辛そうな声で水原はそう言った。
「ごめんね、今は無理、かも。……あとで、ちゃんと話、聞くから」
「ごめん、俺も今じゃなきゃ無理。これ以上お前に嘘、つきたくない」
……嘘?
その言葉だけが妙にくっきりと耳に残った。
嘘ってなんだろうって、思ったけど。
それよりも、今はどうしても胸が痛くて。
涙が、出そうで。
「お願いだから、あとにして。私、今は水原の傍にいたくな……っ」
「っ、三浦」
掴まれた手を引き寄せられて。
足下で、ドサッとカバンが落ちる音がした。


