恋の糸がほどける前に


私の視線に気付いたのか、ぱっと顔を上げた水原が小声でそう訊いてきた。

そんな言葉に、どれだけ自分が水原のことを見つめていたかに気付いて、「なんでもない」と慌てて首を横に振る。


もう、なにやってんの、私。

集中、集中。

今はテスト勉強のことだけ考えなくちゃ────。



……昔から、一度何かに熱中すると周りが見えなくなるタイプだった。

勉強もそうで、始めるまでは長いけど、はじめてしまえば一気に何時間でも続けられる。


……で、たいてい下校時間が来ていることに気付かないで、最後に司書の先生に「帰る時間よ」って肩を叩かれるんだけど。


今日、私にそれを告げてくれたのは水原だった。


「……ら、三浦」


「!」


一度呼ばれたことに気付けば、何度も呼んでくれていたことにも気付く。

水原の声にハッとして顔を上げて周りを見渡すと、図書室にはもう誰も残っていなかった。


「三浦ってホントに集中力すごいよな」

自分のカバンに勉強道具をしまいながらそう言って、水原は笑う。


「ご、ごめん。もしかして佐伯先生も帰っちゃった?」

いつも最後に私に声をかけてくれる司書の先生の名前を出す。


「あー、うん。鍵は事務室に持って行けばいいから、って言い残して出てった」

「うわああ、ごめんね。今片づけるから」


ガチャガチャと音を立てて、慌ててペンケースに筆記用具をしまう。