恋の糸がほどける前に


3年生は試験やら色々忙しい時期だけど、1、2年生にも学年末試験が迫っていた。

今まで再テストやら追試やらの救済措置で、なんとか通知表に赤が付くのだけは免れてきたから、ここでやらかしてしまうわけにはいかない。

普段は予習復習も部活の忙しさにかまけておざなりになっている私も、さすがにテストまで2週間を切ってからは、放課後は毎日図書室で勉強している。

テスト前の図書室は、席取りの激戦区。

図書室のほかにも、空き教室や自習室といった勉強できる場所はそれなりにあるのだけど、図書室がいちばん静かだし、勉強しやすい環境が整っているからかな。

やっぱり、図書室が一番混んでいると思う。


私の住む地域はあまり雪は降らないから、2月になっても空から零れ落ちてくるのは、氷になりきれない冷たい雨だった。


放課後、なんとか図書室で席を確保した私の耳に届くのは、カリカリというシャーペンの芯がノートを滑る音と、時折聞こえるノートや教科書をめくる音。

そして、窓の外を濡らす、微かな雨の音だけ。


そんな静寂をやぶったのは、私の真正面から聞こえてきた声だった。


「ここ、いい?」


ひそめられた声がいつものそれよりも低い印象を与える、好きな人の声。


ハッとして顔を上げると、遠慮がちに机の上に勉強道具を置く水原がいた。