「っていうか、言ったそばから名前で呼んでるし!!」
「ったく、めんどくさい奴。わかったって。……じゃあ、俺もう行くわ。またな、葉純」
わざとらしいため息をつきながら、ポンポン、とまるで小さい子どもをあやすように私の頭を軽く叩いてから歩き出した萩野先輩の後ろ姿が憎い。
「あ、あんたの頭には記憶力ってものが無いの……!?」
「残念ながら葉純よりはあるかなー」
クスクスという笑い声と共に返されたもっともすぎるセリフ。
私が言い返す言葉を見つける前に、先輩は廊下の角を曲がって見えなくなった。
ほ、本当に嫌なやつ……っ!
「ふー、終わった終わった。うわっ!!」
ガラッ、と背後でドアが開いた音がしたと思ったら、ドンッという軽い衝撃が体に走った。
教室から出てきた水原に、押されたからだ。
「危なっ!」
「あ、ごめん」
驚いたような水原に、しかし失礼なイトコへのイラつきが収まらないまま反射的に謝ったら、自分でも引くような低い声が出た。


