「本当、信じられない。……私、本当に貴弘くんのことが好きだったんだよ」
そう言って、雫は表情を歪めた。
「いつだって、貴弘くんのいい彼女でいられるように頑張ってたの。貴弘くんが私じゃない人を見ていたことなんてずっと気付いてたけど、それでも私は一緒にいたかったから。
貴弘くんがこんな私を見たことがないのは、私が頑張っていた証拠なの……!」
「……雫」
……あぁ、そっか。
雫はいつだって穏やかで聞きわけがいい彼女だと思っていたのは、俺の思いこみで。
俺が見ていたのは、俺のために辛くても笑ってくれていた雫だったんだな。
別れる時に雫が俺を一切責めなかったのは、責めなかったんじゃなくて、責められなかったんだ。
……俺が、そうさせてたんだ。
「だから、その名前で呼ぶのは止めてって言ってるでしょ!?」
バッ、と雫が力ずくで俺の手から逃れようと腕を振り上げた。
「っ!」
だけどそれを許さずにギュッと雫の手を掴む手のひらに力を込めると、彼女は痛みに顔をしかめた。
「ごめん」
「……っ」
いきなりの謝罪に、雫は訳が分からない、とでも言いたげな表情だった。


