「ちょ、髪までひどいことになるでしょっ!?」


「はは」


「はは、じゃないよ!」


それから気がすむまで私の頭を揺らしていった貴弘。

手をはなしてくれたころには、本当に私の髪の毛はすごいことになっていた。


「もう~」


鏡を見なくても分かるくらいボサボサだよ……!


「……ありがとな、葉純」


髪を直していたところにぽつりと貴弘のそんな言葉が聞こえて、私は思わず手を止めた。



「……貴弘」


「今すぐには無理だけど。……ちゃんと諦めるから」


「……」


「ちゃんとイトコに戻るから」



泣きそうな顔で笑って、貴弘は私にくるりと背を向けた。


ドアを開けて出ていく貴弘の背中に、私はなにも言えなくて。


ただ、名前もわからない、今まで感じたことのないような大きな想いに、喉と胸の奥をぎゅーっと締め付けられる苦しさに、もう一度、涙がこぼれた。