恋の糸がほどける前に


────カラン。

足もとで鳴ったはずの音は、私の耳には届かなかった。


一瞬で頭のなかが真っ白になって、全ての感覚が瞬間的に失われたような気がした。


それでも、それは一瞬のこと。

自分の身体に回る腕の力も、鼻腔をかすめる甘い香りも、押し付けられる体温も、一瞬遅れて一気に押し寄せてきて、貴弘に抱きしめられているのだと理解する。


「ちょっと……っ!離して!」

「やだ」

「やだ、じゃないよ!見回り中でしょ!?こんなことしてたらダメだよ」


ドキドキとはやく脈打つ心臓の鼓動を悟られたくない。

他にちゃんと好きな人がいるのに、こんなふうにドキドキしている自分が嫌だ。


「……見回り中じゃなきゃいいってことか」

「!? そ、そういうことじゃない!!」

「つか、そもそもお前に隙がありすぎるのが悪い」

「は!?」


密着した身体を押し返そうとしたけど、びくともしない。

むしろ私の抵抗を封じるように、貴弘の腕の力が強くなる。