何もないところで躓いた私は、思いっきりバランスを崩してしまった。
本当なら派手に転んでいたのだろうけど、繋いだままの水原の手を思い切り引っ張った格好になったので、反射的に水原が私の身体が倒れる前に引き寄せてくれた。
そのおかげで、なんとか公衆の面前で醜態をさらすことにはならなかったけど。
「……」
はからずも密着することになった私と水原の身体。
さっきまで触れていたてのひらだけでもドキドキしていた私に、こんな至近距離、完全にキャパーバーだ。
背中に回る腕が、耳に触れる吐息が、全部熱く感じてしまう。
「……ありがとう」
────もう大丈夫だから、離して。
ドキドキをなんとか抑えてそう言うと、自分でもわかるほどの緊張しきった強張った声が出た。
ゆっくりと、私を支えていた腕が解かれて、水原に預けていた体重をゆっくり自分のもとに戻していく。
ふわりと、二人の間を涼やかな風が通り抜けていった。
お互いに何も言わないまま、人の波をさけて通路の脇に出る。


