恋の糸がほどける前に


地元ではいちばん大きな神社のお祭りだから、結構な人出。

場所を探すどころか、ぼうっとしていたらはぐれてしまいそう。

前を歩く背中を何度も見失いそうになりながらも、慣れない下駄をカラカラと鳴らしてついていく。


「このへんでいっか」

人口密度がさっきよりも少しだけ低くなったと思ったら、水原が不意にそう声を上げた。



いつのまにか出店の少ない神社の裏の方に出ていて、人の流れとは別に、立ったまま食べ物を頬張っているグループがちらほら見える。

私と水原もその仲間入りをするように、人の流れからなんとか脱出した。



「すげー人だな。歩くだけで精一杯」


パチン、とタッパーを止めていた輪ゴムを外しながら、水原が苦笑をこぼす。


「ね。私、水原のこと何回も見失いそうになってたもん」


あはは、と笑って返すと、「歩くの早かった?」と心配されて焦った。


もう。

そういう意味じゃないってば。


「人が多すぎただけっ!」


ふたを開けるとソースの香ばしい匂いがして、その食欲をそそる香りに思わず笑顔になりながら言うと、水原も「よかった」と笑ってくれた。