恋の糸がほどける前に


ぽん、と横から肩を叩かれてそちらに顔を向けると、やきそばの入ったタッパーをふたつ、手に持った水原が立っていた。

そのうちのひとつを私に差し出してきて、私はお礼を言って受け取る。



なんでもないことのように水原の口から私の名前が出てくるから、どうしていきなり下の名前で呼ぶのか、訊くことができなかった。



少なくとも私にとっては、あの頃のように水原を下の名前で呼ぶなんて、簡単にできることじゃない。

きっと照れて、恥ずかしくて、顔から火が出るかと思うくらいドキドキするに違いない。


想像するだけで顔に熱が集まってくるくらいだ。

実際に口に出したら、自分の中の熱で私は溶けてなくなってしまうかもしれない、なんてしょうもないことを考えてしまう。


「腹減りすぎて死にそうだから、とりあえずコレ食べてからみてまわろう」

「うん」


落ちついて食べられる場所を探して、きょろきょろとまわりに視線を走らせる水原につられて、私もぐるりと見渡して見るけれど自分より背が高い人ばかりで、全くの役立たずだ。