恋の糸がほどける前に



……中学の頃は、当たり前のように下の名前で呼び合っていた。


だけど、2年生のころかな。

私たちは仲が良すぎたらしく、付き合ってるんじゃないか、なんて噂が立って。

はじめは気にしていなかったけど、仲良くしていた友達が水原のことを好きだと打ち明けてきて、そのとき初めて水原がモテるのだと知った。

それと同時に、理由の分からない後ろめたい感情が生まれてしまった。

その友達にも、どうして自分が謝っているのかわからないまま「ごめんね」と呟くように口にしたのを覚えている。


それからは、なんとなく苗字で呼ぶようになったけど。


だけど、それまでは。

あの頃は、葉純って呼ばれるのが普通で、むしろ3年生に上がってから、苗字で呼ばれることにも呼ぶことにも異和感を感じていたくらいだったのに。


あの頃の私は、どれだけ幸せものだったんだろう。

毎日のように名前で呼ばれて。

なんのためらいもなく私も水原のことを下の名前で呼んでいた。



……あの頃は、全然なんともなかったのにな。

特別な感情なんてそこにはなにもなかったのに。

名前を呼ばれただけで動けなくなるくらい好きになるなんて、想像もしていなかった。



「葉純」