恋の糸がほどける前に


「何も言ってない!!」

「えー?」

「俺、腹減りすぎて死ぬわ!早くなんか食おう」

「!」


グイッ、と引かれた手首。

そんなに体格がいい方ではないからか、いつもはそんなに大きくは見えない手。

だけど触れられた途端に、やっぱり男の子なんだな、って感じてしまうその掌の広い温もりに、自分の手首がいつもの何倍も華奢なように錯覚してしまい、否応なく心拍数が上がってしまう。


「水原、そんなに引っ張らなくてもやきそばは逃げないよ」


照れ隠しにそう言うと、水原が不思議そうに私を振り返った。


「なんでやきそば」

「え?だって、食べるでしょ?」

「……食うけどさ」


呟くように答えた水原が、早足だった歩調を緩めてくれた。

それと同時に、触れていた温もりが離れていく。

手首から消えた温かさに少しだけ寂しくなったけど、カコン、と下駄を鳴らして私は一歩大きく踏み出すと、水原の隣を並んで歩き出す。


「あ、ホラ、あったよ!やきそば屋さん!」